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「ペット飼育可」は遠くて古い? ペットと暮らせる賃貸住宅の常識が変わる

「立地が悪い」「築年数が経っている」。これまで「ペット可」の賃貸物件には、ネガティブな背景があるのが当然だった。ところがいまや日本は、空前のペットブーム。「ペットと暮らすなら、遠くて古い家でもしょうがない」。そんな常識は変わりつつある。


文/浅野裕見子


東京キャットガーディアンの猫付きシェアハウス「562大阪京橋」のめかぶ君。共用キッチンは完璧に侵入防止にしてある
東京キャットガーディアンの猫付きシェアハウス「562大阪京橋」のめかぶ君。共用キッチンは完璧に侵入防止にしてある

 2000年、日本初のペット共生注文住宅「ヘーベルメゾン+わん+にゃん」を誕生させた旭化成ホームズは06年、賃貸物件にもその展開を広げた。


「賃貸住宅でも、気兼ねやトラブルなく快適にペットと暮らせる環境づくりをサポートすることが大切なんです」


 同社マーケティング本部テナント企画室長の吉澤好彦さん(55)はその意義を話す。


入居者の募集・管理全般を行う関連会社の旭化成不動産レジデンステナントサービス推進室の佐々木亜子さん(31)は、正社員の獣医師だ。入居前の時点で、飼育希望者には全員に電話によるヒアリングを実施。しつけや日常の飼育状況について確認することでペットに起因する問題を未然に防いでいると話す。


「入居者の安心な生活をサポートするために、入居者専用ホームページでは健康やしつけに関する相談を無料で実施。場合によってはトレーナーが手助けに訪問することも」(佐々木さん)


 足立区の物件にトイプードルのアン(生後11カ月・オス)と暮らす神山英治さん(25)は「以前はペット飼育可の集合住宅にいましたが、鳴き声などで階下の方と気まずくなってしまって。転居を考えていたとき、こちらのペット共生賃貸ならフォロー体制がしっかりしてるから、と勧められたんです。入居してみたら、みなさんしっかりした方ばかりで、安心しました」という。同社ではしつけ教室の開催などを通して、住宅内でコミュニティーが生まれやすいようバックアップも欠かさない。


「こうした取り組みこそが付加価値だと思っています」(吉澤さん)

 

ヘーベルハウスのペット共生賃貸にお住まいの神山さん夫妻と愛犬のアン。「しつけ教室でアドバイスをもらって、すごく役立ちました!」
ヘーベルハウスのペット共生賃貸にお住まいの神山さん夫妻と愛犬のアン。「しつけ教室でアドバイスをもらって、すごく役立ちました!」

賃貸最大の「タブー」 猫に特化した物件も

 室内の傷みや臭いで退去時に問題になることが多かったのが賃貸での猫の飼育だが、賃貸住宅経営コンサルタント業のクラシヲはあえて、猫専用共生型賃貸住宅「necoto®」を展開する。代表取締役の杉浦雅弘さん(56)によると、建物の汚損問題は、昨今の建材の進化で、ほとんど解決できるのだという。杉浦さんは3年前、会社設立を機に猫専用賃貸構想を商品化。自ら中古アパートを1棟買い上げ、モデル住宅を完成させた。当初は不動産業者からも「ほんとに猫だけ?」と不思議がられたが、あっという間に全12戸が満室に。今は中古物件のリノベーションと新築が半々で、自社物件、受注物件合わせて全44棟、戸数にして約250戸(受注ベース)という急成長ぶりだ。


「入居条件や運用ルール案はもちろん、投資から回収までのキャッシュフローまで提案する」という杉浦さんには、全国の「大家の会」などから講演依頼が殺到している。


 仙台市内の不動産経営者、千葉裕二さん(36)は今年、猫専用共生型賃貸住宅の2棟目をクラシヲに依頼して新築した


「1棟目は昨年、独自に作ったのですが、やはり杉浦さんはノウハウ豊富で違いますね」


 愛猫家の千葉さんは、こうした物件を作ることで保護猫活動の拡大にも貢献できるはずと期待を寄せる。


 ペット共生のコンセプトは、相続税対策でアパート経営を考える人の間にも広がりをみせている。葛飾区の渡部佳孝さん(66)は「今は新築でも空室が目立つ。どうしたら差別化できて、経年で価値が減衰しない物件が作れるか考えた」という。


 壁や床を補強した程度の猫仕様では手ぬるい、と悩んでいたところ杉浦さんを紹介された。


「おかげさまで、すぐ満室になりました」。

 

necoto®、仙台市内、千葉さんの新築物件「シャノワール北山」
necoto®、仙台市内、千葉さんの新築物件「シャノワール北山」

賃貸の新形態にも ペット共生の波

 若い世代へ急速に広がったシェアハウスにも、ペット人気の波は寄せている。


 シェアハウス企画会社HOUSE-ZOOの代表取締役、田中宗樹さん(44)は、日本シェアハウス協会の副会長でもある。同社のペット可物件は犬・猫専用、混在、女性専用、男女可などさまざまだが、共用スペースには飼い主同伴ならペットを連れ出してよいことになっている。2月から就活のため、東京・国立市のシェアハウスを利用している大学生の石黒麗さん(22)は「実家は猫、ハムスター、インコと動物園みたいににぎやかだったんです。いきなり一人暮らしを始めたら、絶対に寂しいだろうなと思って」。


 実家から連れてきたインコのぽんちゃんに加え、入居後に保護猫を1匹、引き取った。


「知らない人との共同生活は最初は緊張しましたが、暮らしてみると楽しい! 今ではここから通えるところに就職しようと、エリアを絞って考えています」


 同居人は20代女性と40代男性。「急な用事でペットの世話ができなくなったときには、女性同士LINEで部屋の電子キーの番号を知らせて様子を見てもらうことも。一人暮らしじゃ、こうはいきません」

 

ペットと暮らせるシェアハウス。越谷市にあるHOUSE-ZOO壱番館のリビングルーム。人もペットもホームパーティーなどを楽しめる
ペットと暮らせるシェアハウス。越谷市にあるHOUSE-ZOO壱番館のリビングルーム。人もペットもホームパーティーなどを楽しめる

不動産経営で保護活動の拡大も

 保護猫と暮らす賃貸住宅の先駆けが、日本初の「猫付きマンション」や「猫付きシェアハウス」を手掛けるNPO、東京キャットガーディアン(TCG)だ。現在は関東と関西の一部に合計4棟20戸の「猫付きシェアハウス」と80戸の「猫付きマンション対応物件」があるが、代表の山本葉子さん(56)は、「『ペット飼育可物件』とは成り立ちが違う」と話す。保護活動をする団体のシェルターは現在、どこも満杯だ。自宅で10匹、20匹も預かっている人もいるという。「この状況をどうにかしようと検討を重ねた結果生まれたのが、猫付き賃貸です。家賃で活動費用を賄いながら入居者には飼育ボランティアの手伝いをしていただく。私たちの間では『外部シェルター』と位置づけています」(山本さん)


 シェアハウスの入居者は保護猫の様子を毎日、本部にメールで報告。異常があればすぐ応じる体制を整えている。「必要ならば獣医も派遣します。傘下に動物病院があるから、低コストで対応できるんです」


 一方、猫付きマンションに保護ネコは〝常駐〟していない。


「ご自分の猫も飼えますし、ご希望ならば保護猫を預かり飼育することでもできます」


 預かり飼育の猫の食費や医療費は入居者負担。飼ってみてどうしても無理ならば、シェルターに戻すことも可能だ。


「シェアハウスもマンションも最終的には譲渡もできます。猫と暮らしてみたいけれど自信がない、という人の『お試し』にとてもお勧めです」


 山本さんは定期的に、こうした物件の運営に関する勉強会も開催しているが、目的は「安易な考えで乗り出そうとする人に警鐘を鳴らすため」と言い切る。


「賃貸住宅と保護活動をリンクさせる上で、永続的な適正飼育の徹底と、バックアップ体制の確立は不可欠です」


 思い付きで始めて頓挫したら、「個人の趣味で始めた多頭飼育が崩壊するのと同じ」と手厳しい。動物の救済が命題の保護団体として当然の視点だろう。


 ペットとの生活は「許可されるもの」から「快適な共生」へ。この流れが動物保護活動に、新たな展開をもたらしているようだ。



(朝日新聞タブロイド「sippo」(2017年7月発行)掲載)


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