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名取裕子&ジジ、ココ 自分も通る道を先に歩む犬たち長くない「犬生」に向き合う

芸能界では有名な愛犬家。
「犬生」をまっとうさせてあげたい。
何かできなかった、という後悔はしたくない。
そのためにしつけも介護も全力を尽くす。
命を守る。それが飼い主の当然の責務。

文/太田匡彦 撮影/加藤夏子



 この4年間、毎日かかさず、1日3回つけているメモがある。


 今年7月で18歳になるジジ(メス、写真左)の「日誌」だ。既に目が見えず、耳は聞こえず、歯も悪くなっていて、椎間板(ついかんばん)ヘルニアや心臓病など様々な疾患を抱えている。そのためわずかな変化も見逃さないよう、朝昼晩何を食べたのか、薬は何を飲んだのか、どんな症状が現れているか、すべてを記しているという。


 名取裕子さんはこう話す。「体調が変化したとき、その前になにが起きていたのかがわかっていれば、原因や対処法がわかります。いろいろな病気を持っているのですが、この子にはまだまだ長生きしてほしい。だから、完璧な介護をしてあげたいと思っています」


 ほかにも毎日、コットンを使って歯磨きをしてあげるなど、愛犬たちの健康管理には絶対に手を抜かない。アレルギー体質のココ(メス、9歳、写真右)については、フードの管理も徹底している。


「この子たちは私の大事な家族です。言葉を話せないのだから、私がしっかり見てあげないといけない。飼い主の責務として、命を守っていきたい」

 

ジジはドッグショーで50もの賞を取った。「成人式を迎えようね」と名取さん
ジジはドッグショーで50もの賞を取った。「成人式を迎えようね」と名取さん

犬は人間の鏡個性を伸ばして

 名取さんといえば、芸能界でも有名な愛犬家だ。子どものころからずっと、犬や猫に囲まれてきた。テレビに映る「名犬ラッシー」にあこがれて育ち、当時の夢は「犬と一緒に寝ること」だったと振り返る。


 中学生のころ、飼っていたフク(クーちゃん)という名前の犬が、急に倒れた。名取さんはフクを抱え、ためていたお年玉を握りしめ、「クーちゃんを助けて下さい!」と動物病院に駆け込んだ。


 獣医師は中学生にも優しく対応し、手術をしてくれた。それから40年以上がたった現在も、名取さんはその獣医師のいる病院に通っている。いまは息子さんと一緒に、ジジとココの主治医となって見守ってくれているという。


 そんな名取さんにとって思い入れの深い犬がブブ。ジジの母犬で、2012年6月に17歳で亡くなった。


 ブブを飼い始めたのは、名取さんが37歳のとき。そのころからいまに至るまで、ドラマの撮影で長く京都にいることが多く、撮影の際には東映京都撮影所のそばに「ペット可マンション」を借り、ブブと一緒に過ごしてきた。


「ブブほど東京と京都を往復した犬はないと思います。京都では『犬好きのドライバーさん』を指名して移動用の車を手配してくれていたので、その方にもすごくかわいがってもらっていました。そのせいもあってか、京都が大好きな子でした」


 頭がよく、人なつこい犬だった。ロケ現場に連れて行くと、弁当が入っている段ボール箱に首を突っ込み、じっと弁当箱を見ている。でも絶対に手を出そうとはしない。名取さんが地方ロケに行くために荷造りをしていると、「ああ行っちゃうのか」とすぐに察する。姿が見えなくて探すと、荷造りしたスーツケースの上で寝ていたりする。


「そこで寝ていれば、連れていってもらえると思うんでしょうね。『犬知恵』が働く、やることなすことが本当にかわいい子でした」


 いまブブは、京都市右京区の「西寿寺」に建てた墓に眠っている。高台にある墓地からは、ブブが大好きだった京都の街がよく見え、撮影所も近い。ブブを迎えた3年後に生まれたジジと、友人宅で生まれて譲り受けたココを連れて時々、お墓参りに訪れているという。


 母犬ブブと一緒に暮らしていた娘のジジは、控えめで我慢強い性格に育った。ドッグショーで50もの賞を獲得した「自慢の娘」でもある。一方で子犬の時に譲り受けたココは、わがまま放題で「悪魔のよう(笑)」。自己主張が強く、ジジにちょっかいを出し、「悪さ」ばかりしているという。


「犬は飼い主の鏡です。だから『バカ犬』がいるとしたら、それは犬ではなく飼い主がダメだということなんです。犬に人間の側の都合を押しつけるのではなく、いいことをしたらほめてあげて、それぞれの犬らしい性格を伸ばしてあげたいと思っています」


 だから名取さんは、「犬生」をまっとうできるような環境を用意してあげたいと考える。一方でペットの虐待や遺棄、ペットショップにまつわる生体販売の問題など、様々な課題が人間社会のほうにはある。


「犬は飼い主を選べない。でも犬は、命を大切にするという当たり前のことを人間に教えてくれます。犬や猫などのペットにまつわるすべての関係者が、しっかりと命に向き合ってほしいと思います」

 

「みんな私の大切な家族です」。ブブ(左)からも、たくさんのことを教わった
「みんな私の大切な家族です」。ブブ(左)からも、たくさんのことを教わった

ブブの死から3カ月ジジが肺炎に

 ブブをみとり、ジジを介護している名取さんにすれば、犬たちから「人生の縮図」を見せてもらっているような気がする。


「犬はその短い犬生の間に、生老病死のすべてを私たちに見せてくれる。自分も通る道を、先に歩んでくれているんだなと思います。限られた時間のなかで、何かしてあげられなかった、できなかったという後悔をしなくて済むように、犬たちからたくさんのことを教わっています」


 それだけに、ブブが死んで3カ月後、ジジが肺炎を患ったときには動揺した。名取さんはこう振り返る。


「当時は撮影の真っ最中で、そんな環境でブブの介護につきっきりでした。だからしばらくは、ジジのことはほとんどかまってあげられなかった。それなのにいきなり死にかけて……」


 ジジちゃん死なないで。ママはまだ何もしてあげていない。お願いだから死なないで──。


 倒れたジジに、そう声をかけ続けた。結局、ジジは20日間酸素室に入り続けるなどの治療の末に、なんとか回復した。


「ブブにやってあげられなくて後悔したことはすべてジジとココにしてあげようと思っています。いまはジジの二十歳の成人式を祝うのが目標です」

 


(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年4月発行)掲載)


名取裕子(なとり・ゆうこ)
1957年神奈川県生まれ。女優。映画「序の舞」「吉原炎上」「マークスの山」、テレビドラマ「けものみち」(NHK)や「京都地検の女」「法医学教室の事件ファイル」(ともにテレビ朝日系)などに出演

 



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