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藤村かおり・sippo|更新|2017/08/12

初めて飼った猫がインスタでスターに 「どんこ」の飼い主の変化とは

写真=井上佐由紀
写真=井上佐由紀

 東京都渋谷区のマンション。玄関のベルを押してドアが開くと、まるい猫の顔が見えた。


 鼻や顎に独特の茶柄、身をひるがえして廊下を歩く背中には茶色の水玉模様が一つ、二つ、三つ……。猫の名は「どんこ」、9歳のオス猫。インスタグラムのフォロワーが4万人を超え、雑誌にも度々登場する、大人気の猫だ。

 

(末尾に写真集があります)

 

「フレンドリーで、誰が来ても出迎えるんですよ」


 そう話すのは、「どんこ」の同居人、外山輝信さん(38歳)。写真家の井上佐由紀さん(42歳)と、マネージャーでパートナーの外山さんと、「どんこ」が暮らし始めて、今年で6年になる。


「ちょっとお腹が弱いけど、大病することもなく、大きな事件もなく今に至ります」

 

写真=井上佐由紀
写真=井上佐由紀


 ごろんとお腹を見せて転がる様子からも、平穏な生活がうかがえる。


「渋谷区でマンションをリノベーションして、写真も自分で撮って提供できるので、メディア等にも出やすかったのだと思います。ブログを始めたら、猫とクリエーターをテーマにしたWebマガジン「ilove.cat」に取り上げられ、飛躍的に閲覧数が増えました」


 “スタイリッシュな部屋にぶさ可愛い猫”として、『どんこ』はどんどん認知されていった。だが、その表現にも、外山さんはいやいや、と謙遜するように首をかしげる。


「可愛い猫は、他にたくさんいますから。うちの猫は普通ですよ、普通。あっ、でも最初に『どんこ』に会った時は、少し不細工だと思ったかも(笑)」


 家にやってきた時、「どんこ」は3歳。井上さんにとっても外山さんにとっても、猫を飼うのは初めてだった。


「以前から時々、友人の外出時に猫を預かっていたんです。それが保護猫だったことから、猫を飼うなら自分たちも、買うのではなく、“譲り受けたい”と思うようになりました。猫の飼育は未経験なので、性質がわかっている成猫も迎えやすいかなと、年齢にはこだわりませんでした……」


 ネットで見た猫の数は500匹以上。その中で、井上さんらの心を捉えたのが、神奈川県の個人ボランティア宅に保護されていた「どんこ」だった。ボランティアによれば、「どんこ」はブリーダーの元で繰り返し繁殖に使われ(売られるわけでもなく)、食事も満足に与えてもらえず、レスキュー前はガリガリにやせていたという。

 

外山輝信さんに抱かれる「どんこ」
外山輝信さんに抱かれる「どんこ」

「僕らがボランティアさんの家に会いに行った時には、元気そうでした。劣悪な環境から救い出して健康に戻し、譲渡先を探すボランティアさんがいることも、初めて知ったんです。『どんこ』は人懐こくすり寄ってきて、やっぱりこの子だと縁を感じて、家に迎えることにしました」


 家の広さは約55平方メートル。壁も床もグレーのモルタルのおしゃれな造りで、13畳のリビングのほか、寝室と写真の暗室がある。大幅にリノベーションしたそうだが、「どんこ」を迎えた時は(ペット不可の)アパートに住んでいて、3カ月して今のマンションに越してきたという。


「本当はもう少し早く引っ越してくるはずでしたが、引っ越し前に東日本大震災が起こり、断熱材が優先的に被災地のほうに送られて、工事が後ろにずれこんだんです。『どんこ』は新居にすぐに慣れてくれました」


 ちょっと変わった名前の由来は、九州・福岡県の「どんこ舟」。ふっくらした猫の顔と和風の名前がマッチしている。


「どんこ舟は、井上の故郷、柳川の水路を下る舟のこと。自然や城跡を眺める舟ですが、どんこ、という響きが気に入って付けたんです。じつは柳川名菓の“こっさんもち”にちなみ、『こっさん』という名も候補にあがっていました、その雰囲気もあるかな(笑)」


「どんこ」の特徴は、何といっても顔や体の模様なのだが、額は“刀傷”、胸にある薄い水玉は“カラータイマー”と呼んでいる。右顎から首にかけて広がる模様の名称は、ブログで募集したのだとか。


「顎の下の模様の名称は何がいいかな? とブログに書いたら、“焼きすぎたナン”とツイッターで一言、読者から送られてきました(笑)。上手ですね」

 

写真=井上佐由紀
写真=井上佐由紀

 実はこの数年間に、かなり多くの人が『どんこ』との面会を果たしたのだとか。


「インスタで見て、東京に行くので会いたいと仰る方もいて。自宅だし仕事もあるしで、どうしても限られはしますが……。『どんこ』は来た当初から4キロちょっとですけど、実際に会った方から、思ったより小さい、もっと体重があると思ったと言われることがあります。顔が大きいので、画面だと大きく見えるのかな」


 取材中、「なんか自分のこと言ってる?」と聞くように、「どんこ」がふいにテーブルに乗ってきた。その背を撫でながら、外山さんが、ぽつりと言った。 「人間の方は少し変わったかもなあ」


 猫がいなければ知りえなかった人と出会い、普段は人見知りの井上さんが、『どんこ』を介してだと「よく」しゃべる。その様子に少なからず驚いたというのだ。


 インスタを通じて縁が広がり、東京・新宿の京王百貨店で8月17日~21日に開かれるsippo写真展「みんなイヌ みんなネコ」にも、大勢のインスタグラマーの写真と一緒に、「どんこ」の写真が展示される。


「猫が人をつなぐんですね。今はもう“いるのが当たり前”の家族ですが、ずっと元気で長生きしてほしい。食が落ちたかなとか、体重減ったかなと思うと、もうすぐに動物病院に飛んでいきますよ(笑)」


 病院でも人気者だという『どんこ』。担当ではない先生まで「カレンダーを買いましたヨー」と、診察室に見に来ることもあるのだとか。


 大勢に愛され見守られるアイドル猫は、家族と皆に、今日も元気と微笑みを届けている。川をいく舟のように、ゆったりと。


井上佐由紀さんのインスタグラム

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写真=井上佐由紀
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出典:sippo
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藤村かおり

藤村かおり(ふじむら・かおり)

ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は14歳の黒猫と暮らす。


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