3匹のメス猫との甘い思い出 結婚生活にずっと寄り添った猫たち

「すべてはあなたから始まったのよ」シャンプーを抱く敦子さん
「すべてはあなたから始まったのよ」シャンプーを抱く敦子さん

「僕らの結婚生活は、ずっと猫と一緒。最初に暮らしたのは、シャンプーという名の雌のシャム猫でした」


 作曲家の秋透さん(60)は36年前、京都芸術大学の学生時代に、京極通りのペットショップで青い目の子猫を見かけた。放置されたようにケージにいる姿が気になった。


「なんとかしなきゃという思いがわき上がり、引き取ったんです。でも、あまりに体が汚れていたので、シャンプー、シャンプーと思って、結局、それが名前になりました(笑)」


 秋さんにとって、初めての猫との暮らし。当時、猫は家と外を行き来するものと思い、アパートの外に遊びに行かせることもあった。やがて大学の後輩の敦子さん(56)と結婚。シャンプーを伴って上京した。


 シャンプーは環境の変化にストレスを感じたのか、マンションの室内で大暴れした。とはいえ、自然の多かった京都と違い、転居先の大田区は車も多く、前のようには表に出せない。そんな折、妻の敦子さんが、散歩を思いついた。


「以前読んだ本に、『ハーネス(胴輪)をつけて喜んで歩く猫の筆頭にシャムがいる』と書いてあったのを思い出して、さっそく実行しました」

 

散歩が好きだったシャンプー(よく犬と間違えられた)
散歩が好きだったシャンプー(よく犬と間違えられた)

 シャンプーが戸惑ったのは最初だけで、まもなくハーネスを見るとピンと尾を立て、自分から胴輪をくぐって、玄関で待機するようになった。散歩が奏功したのか、それ以降、部屋で暴れることも減ったという。犬のようだ、と敦子さんがいう。


「シャンプーは主人に忠実で、ダメといわれたらテーブルに乗らない。でも主人が出かけると、私の言うことは聞かず、テーブルに乗りたい放題(笑)」


 秋家の“一人娘”は、のびのびと暮らしたが、20歳の頃に老衰で寝たきりになり、介護の末、21歳で大往生した。ペット霊園に納骨した後、秋さんの様子がおかしくなった。


「急にいろいろなブリーダーさんに電話して、丸顔のシャムいませんか? シャム譲ってくれませんか? と聞いて回って。悲しみの果ての“シャムロス”でしたね」

 

 

■新たに迎えたシャム

 そして、シャンプーが逝った1か月後、生後4か月のシャム2匹を、ネットの里親募集で見つけ、家に迎えた。それが、雄のカムイと、雌のコンコだ。

 

里親募集で引き取ったコンコ
里親募集で引き取ったコンコ

 再びシャムとの生活が始まったが、前々からの家の日当たりの悪さが気になっており、また折に触れてシャンプーを思い出すため、翌月、“気分転換”で郊外(町田市)に引っ越すことにした。


 敦子さんは引っ越しの2日前、シャンプーが眠る霊園にお参りし、「ママたちは引っ越すことにした。引っ越し先はここ」と新住所を読み上げたという。不思議なことが起こったのは、引っ越し前夜だった。荷造りを終え、夫婦で夕食に出かけて帰宅すると、家の前に白い子猫(生後2か月位)がいたのだという。


「すごい勢いで走ってきて、私の足にしがみついたんです。しがみついたまま玄関の中まで入ってきてしまい、あまりに泥だらけなので風呂場に直行しました」


 子猫の泥を落とすと、体の半分の毛がはげていたという。翌朝に動物病院に連れていくと、「雨で蒸れて自分でむしったか、むしられたか不明」といわれた。この姿ではもらい手も見つからないのではないかと思い、夫婦は町田の新居に一緒に連れていくことを決意した。引っ越す前の地名(大森)にちなみ、オーチャン、と名付けた。


「オーチャンはシャンプーの生まれ変わりではないかと勝手に思っています。色も種類も違いますけどね」と敦子さん。

 

オーチャンは大森から名付けた
オーチャンは大森から名付けた

■2匹が夫を取り合い

 こんなふうにしてシャンプー亡き後わずか2か月で3匹になり、猫育てで賑やかな日々が始まった。初めて飼った猫を亡くして落ち込んでいた秋さんにも、笑顔が戻った。しかも、シャンプーの時とは少し違うパパぶりを発揮したようだ。


「コンコとオーチャンが主人のことが好きで甘えるから、主人もメロメロで、『なんだーい?』って雄猫に対しては出さない裏声で接して(笑)。寝る時も一緒の布団でした」


 秋さんの添い寝役をめぐり、コンコとオーチャンは、時々もめたという。


「コンコは虚弱でしたが、先住なので威張ってる。小柄な体でオーチャンを壁まで追いつめ、『さっき変な声だしてパパに甘えたわね』という感じで、シャーッと。猫も雌同士でこんな戦いをするんだと驚きました」


 オーチャンを迎えた翌年には、尾曲がりのアメショーのクーカイ、その翌年に里親会でアポロ、さらに3年後には外猫のチューチュー、と3匹の雄も加わって、猫の大家族になった。


 元々虚弱だったコンコは、心筋症になって8か月ほど大学病院に通い、7歳で亡くなった。秋さんは男泣きをする。その横にぴったりとオーチャンが寄り添ったという。それから秋さんは自宅作業の日、必ずオーチャンと昼寝をしたという。


「紅一点になったオーチャンが僕にますます甘え、毎日昼になると鳴くんです。ふにゃああって鳴くと、まあ誘うから仕方ないなと思って仕事の手を休め(笑)、一緒に寝転がりました。真夏でも一緒に寝ていましたよ」


 そんなオーチャンが昨年6月、消化器型リンパ腫にかかった。難治性で、闘病は5か月続いた。


「オーチャンの具合が悪くなった時に主人がたまたま出張だったんですが、戻るまで待っていて、最後にパパとの添い寝をして、旅立っていきました」


 コンコやオーチャンは、シャンプーと同じように存分に愛を受け、生を全うしたのだ。敦子さんがいう。


「女子たちがいなくなり、今は男子チームで立場が弱いクーカイが主人にくっついています。考えてみると、夫婦の会話のほとんどが猫のこと。よく食べたねとか、トイレはしたかとか。夫婦の歴史は猫の歴史そのもの。思い出もまた、宝物です」


(藤村かおり)


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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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